その手に触れたくて
そのまま目線を直司に移しパンをブラつかせると、直司も首を横に振り、その直後だった。
親指と人差し指で袋を摘んで持ってたパンが一瞬にして姿を消した。
「あたしがもーらいっ!」
突然、聞こえた夏美の声に視線を移すと、さっきまで持っていたクリームパンが夏美の手に渡ってた。
「お前、マジよく食うよな」
隼人が馬鹿っぽく笑った後、夏美はフンと鼻を慣らしそっぽ向く。
「だってこいつこの前、俺の焼きそばパン勝手に奪って、食いやがったし」
直司は呆れ口調で夏美を見下ろす。
「まだ根にもってんの?直司が食べないっつーから食べてあげたんだよ」
「今は食べねぇっつー意味だろうが。後で食うつもりが…」
「じゃあ、そう言いなよ。直司の日本語分かんないよ。もう一度小学からやり直せばぁ?あっ、保育園からだよ」
夏美がふざけながら言った言葉に直司の眉間にシワが寄り、あたしの目の前を直司の手が通過する。
その直司の手は夏美の顎を掴んでいて…
「ぶっ殺すぞ」
そう言った直司の言葉に夏美は助けを求める様に隣にいる隼人の肩をバシバシ叩いてた。