その手に触れたくて

その隼人が淹れてくれた麦茶をあたしは口に含む。隼人とあたしの間には何故か口数が少なく沈黙が流れて行く。

さっきまでの事もあってか、隼人は未だに表情を曇らせ、哀しいと言うかやるせない顔つきをする。


そんな隼人に何て言えばいいのか分からなかった。


隼人は麦茶を口に含むとズボンからタバコを取りだし、それに火を点ける。だけどそれもほんの一瞬だった…

一口吸った隼人はテーブルにあった灰皿を自分の方へと小指で引き寄せ、挟んでいたタバコを磨り潰した。


磨り潰すタバコを見つめながら隼人は深いため息をつく。そんな隼人の光景に、


「…隼人?」


あたしは小さく呟いた。

そのあたしの声で隼人はゆっくりと視線を上げ、あたしを捕らえる。


「ん?」

「隼人…いいよ吸っても」

「いや…大丈夫」


何が大丈夫か分からない様な答え方を隼人はした。


あたしには分かる。あんな事があったから隼人はあたしの前ではタバコを吸わないつもりでいる。

それが本当かどうかは分からないけど、隼人はその事を根に持ってる。


あたしは大丈夫なのに…



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