その手に触れたくて
その光景を見ながら苦笑いすると隼人は、「いつもこれ」そう言ってあたしに目を向けてフッと笑った。
「ナオ教科書貸してやんないよ」
夏美が声を上げると直司は小さく舌打ちをし夏美の顎から手を離す。
だけど夏美は目の前で教科書をヒラヒラさせ嫌な笑みを浮かべた。
「じゃあね、」
そう言って教科書を持って教室の中に入って行く夏美に、
「え、ちょっ、夏美!?」
「お、お前っ…、」
同時と言っていいほど、あたしと直司の声が重なった。
教室を覗き込むとドアの後ろに隠れている夏美がクスっと笑う。
「嘘だよ。ナオ、はい。」
夏美は廊下に顔を出し、直司に教科書を渡す。
「うぜぇ事やってねぇで、初めから渡せ」
直司は夏美の教科書を奪い取り、そそくさと教室に向かって歩きだした。
「お前らには付き合ってらんね」
隼人は馬鹿っぽく鼻で笑い、教室の中に入って行く。
そんな隼人の後ろ姿に夏美は拳を突き出し殴るポーズをとる。
「…夏美…」
苦笑い気味にあたしはそう言うと夏美はクスっと笑った。