その手に触れたくて
「それは無いと思う」
きっぱりと何故かそれは違うと否定した夏美に反応してあたしは口に運ぼうとしていたメロンパンを止め、夏美を見た。
「だって、そんなの分かんないじゃん」
そう低く小さく呟いたあたしは夏美から視線を逸らし目線を下に落とした。
隼人の事を好きだった先輩。隼人と付き合ってるあたしを恨む先輩。
ただ考えるのは先輩しかなかった…。
だけど、
「もうあの人いないよ」
「えっ?!」
あまりの夏美の衝撃発言に思わず声を上げ、一旦下げた目線を上げて夏美を見た。
「辞めたってさ」
そう淡々とした口調で言ってきた夏美がまたまたあたしの頭の中を混乱させた。
…辞めた?
「何で?」
「何でって、そんな事まで知らないし。でもまぁ、辞めてくれてあたしは嬉しいけどね。美月だって嬉しいでしょ?人の悪口ってさ、あんまし言いたくないけど、あたしはあの人嫌いだったし…。相沢さん言ってたよ」
夏美はあたしをチラっと見て紙パックのカフェオレのストローを口に咥えた。
「何を?」
問いかけるあたしに夏美はくわえていたストローを口から離し、ゆっくりと口を開いた。