その手に触れたくて
隼人はあたしの真ん前まで来て立ち止まると、
「…ごめん」
表情を崩して、そう小さく声を漏らし、手に持っていたビニール袋を差し出した。
だけどあたしはその差し出されたビニール袋を受け取る事なく、視線を徐々に上げていく。
間近で見る隼人の顔は口元が腫れていて切れた跡がある。
それを見たあたしが、その傷痕が分かんない訳じゃない。今まで何回も何回も同じような顔を見てきたお兄ちゃんをふと思い出した。
昔の頃のお兄ちゃんの顔。よく顔中に傷痕を作って帰ってきてた。
その原因は喧嘩。今、目の前に居る隼人は、まさにそれなんだろうと自覚した。
「…美月、悪かった」
あたしが何も口を開かないのを見て、隼人はさらに表情を崩し謝罪の言葉を出す。
あたしから何も言わなくても隼人は自分から謝ってきた。
そう思わせるのは隼人自身が悪いって認識している訳であって――…だけど、でも、あたしには何の“ごめん”なのかはさっぱり分からなかった。