その手に触れたくて

目の前で差し出されているビニール袋から透けて見えるのは、あたしの大好きなメロンパン。


メロンパンを買うって約束を破ったから?

それとも電話に出なかった事?

それとも学校に来なかった事?

それとも喧嘩した事…


考えたら思いつく事はいっぱいある。でも隼人の言った事は全てに当てはまるんだって理解をした時、


「何してたの?」


そう隼人に問い掛けていた。

だけど隼人は、


「いや…何もねぇよ」


そう曖昧な言葉を呟き一瞬、目を泳がせた。


曖昧な応えなんていらない。あたしは隼人が何してたのか知りたいだけ。

隼人が2日間、何してたのとか、その顔の傷は何なのか…知りたいだけ。


大体の事は何となくあたしにも予想はついた。だけどあたしはそんな隼人には何も言わなかった。隼人が言いたくないのは分かるし、聞かれたくない事なんだなって思うと、あたしはこれ以上何も言えなかった。


だからあたしは隼人が差し出してくれたビニール袋に視線を落とし、


「ありがと」


そう言って受け取った。


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