その手に触れたくて
Γ…悪かった」
ポツンと呟かれた隼人の言葉にあたしの手は止まった。
まさか隼人が夏美に謝罪の言葉を告げるのなんて思ってもみない出来事で、一瞬にしてあたしの視線が隼人に向いた。
隼人はあたしじゃなく夏美に視線を向けていて、深くため息を吐いた後、視線を徐々に落としていく。
まさかの出来事にあたし同様、夏美も少し驚いていて夏美の口は止まったままで――…
Γおい、こら邪魔してんじゃねぇよ」
あたし達の居心地の悪い空間を後ろの方でずっと見ていた直司が突然割り込んできて、夏美の腕を引っ張った。
引っ張ってすぐに直司は足を進めて行く。
Γちょ、ナオ!!何処、行くのよ!!」
Γ飯だ、飯!!」
夏美は直司に引っ張られながら足を進め、あたし達の場所から姿を消した。
ってか…行かないでよ、夏美…。正直、今…隼人と居れない。
何、話していいか分かんないよ…
夏美が行った何もない廊下をただぼんやりと眺めていると、
Γ美月…来いよ」
そう言って、隼人はクルッとあたしに背中を見せて歩きだした。