その手に触れたくて

立ち止まったまま隼人の背中をぼんやりと見つめていると、歩きだした隼人は足を止めゆっくりと後ろを振り返る。

振り返った隼人の視線と絡まりあうと、隼人は何も言わずにまたあたしに背中を見せて歩きだした。


その隼人の目が言ってるようだった。“来いよ”って…そう言ってるみたいで、あたしは止めていた足をゆっくりと前に進ませた。


隼人が足を止めた場所はいつも一緒にいた中庭のベンチで、隼人は着くとすぐにベンチに腰を下ろした。


Γ…美月?」


不意に聞こえた隼人の声に目を向けると、隼人はあたしを見ながら座っているベンチの横をポンポンと軽く叩く。

“座れよ…”そう解釈したあたしは、ゆっくりと頷き隼人の隣に腰を下ろしメロンパンの入ったビニール袋を抱え込んだ。


Γ…はぁ…」


…と、隣から深い隼人のため息が漏れてくる。って言うか、隼人よりあたしがため息を吐き出したくなる。

いつもは昼休みになると無性にお腹が減って大好きなメロンパンを食べるのに、なんだか今日は目の前にあるメロンパンさえ食べる気がしない。


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