その手に触れたくて
少し歩いた所にある空き地で隼人は足を止め、すぐにあたしの両肩に手を置いて、隼人はあたしの身体を軽く揺すった。
Γいいか美月。よく聞けよ…今から言う事よく聞けよ。分かったか?」
Γ……」
そう必死な顔をして言ってくる隼人の事をあたしはよく分からなかった。
隼人はあたしの両肩に手を置いたままチラチラと何度も後ろを振り返り確認する。
ただ、その事だけは理解ができた。さっきの男達の事が気になって何度も見ているって事くらい分かった。
だけど目の前にいる隼人の焦った顔と苛立ちの顔。あたしに意味不明な言葉を言ってきた隼人だけは理解出来なかった。
目の前にいるのは隼人なのに…まるで隼人じゃないような感覚が脳を走り――…
言葉を失い呆然と立ち尽くすあたしに、
Γいいか美月、よく聞けよ。今からお前は一人で帰れ。道、分かるだろ?こっからだと美月の家までそう遠くはない」
Γ……」
Γこの道を真っ直ぐ行って信号を右に行ったら大通りに出るから。…な、美月」
そう焦りながら何度も後ろを振り返る隼人はあたしの両肩から手を離し、あたしの背中を軽くポンと押した。
その衝撃であたしの身体はフワッと前へ倒れ込むように足が動き、それと同時に空いている右手に隼人が持っていた珈琲を握らされた。