その手に触れたくて

「え、颯ちゃん?」

「そうそう。颯ちゃんち、空き家があるんだ。そこでね、みんな集まってると思う。食べに行くまでまだ時間あるし、どっかでブラブラしよっかなぁーって思ってたけど、特に行く所もないしさ…」


夏美は自転車置き場まで話ながら歩き、"ね?"って言ってあたしを見た。


「いいのかな…。あたしが行っても…」


自分の自転車を見つけると、籠の中に鞄を入れ自転車を出す。


「いいよ。いいよ。もう美月の事、知ってんだし誰も文句言わないよ。敦っちゃんも颯ちゃんも気軽に話し掛けてくれるし」


"後ろ乗ってい?"

夏美はそう付け加え、あたしが返事をする前に自転車の後ろに跨った。


「どっち方向?」

「とりあえず、あたしの家」

「えっ、夏美の家?」


顔だけ後ろに向けると、「そうだよー」って夏美はあたしの背中をポンポン叩き、よく分からない笑みを見せた。


夏美の家は高1の時から何度か行った事があるから、もちろん知っている。

歩きだと15分ぐらい。あたしの家の方向とは全く逆。


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