その手に触れたくて

お兄ちゃんは険悪な顔をしたままその場所から立ち上がり、あたしに背を向けて歩きだして行く。


Γちよ、響!!どこ行くのよ!!病院連れて行かなきゃダメだよ!!」


歩きだすお兄ちゃんの背中に向かって、凛さんは声を上げる。

だけどお兄ちゃんは凛さんの声すら無視して悠真さんの前すら通り過ぎる。


Γおい、響。さすがにあれはいくらなんでも放置できねぇだろうが」


通り過ぎるお兄ちゃんに今度は悠真さんの声が降り掛かる。

だけど、


Γほっとけよ」


素っ気なく返して行く、お兄ちゃんに無性に腹が立った。

いくらなんでも酷すぎる。お兄ちゃんと隼人がどう言う関係かなんて知らないけど、今この状態で見捨てて行くお兄ちゃんにあたしは幻滅した。

お兄ちゃんの背後を睨み付けながらあたしは唇を噛みしめ、隼人に視線を落とす。


隼人…。あたしが連れて行ってあげる。


そう心の中で呟き、身体が冷たくなっている隼人の身体を起こし、隼人の左腕をあたしの首後ろに回した。


Γえっ、ちょ、美月ちゃんどうするの?」


隣で慌てる凛さんに、


Γあたしが連れて行きます」


そう告げて、立ち上がろうとした。だけど、あまりにも男の隼人の身体はあたしが支えるほどの力はなく隼人が滑り落ちて行く。


隼人の身体を揺さ振った所為か、隼人は顔をしかめながら何度も咳き込んだ。



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