その手に触れたくて
自転車を漕ぎ初めて暫く経った後、夏美の家に着き、自転車を止めた。
「こっからどーするの?」
あたしの問い掛けに夏美はニコッと微笑む。
「もう着いたよ」
「え?」
「颯ちゃんち、あそこなんだ」
夏美は道路を挟んで斜め前の家に指差す。
「え、あそこなの?」
思わずあたしの口から驚きの声が飛び出した。
自転車を支えて呆然と立ち尽くすあたしに夏美はクスッと笑って、あたしの自転車を動かし夏美の家の駐車場へと停める。
「幼なじみだったの?」
「そうだよ。ちなみにあっちの家はナオの家」
そう言ってくる夏美に、またまたあたしは驚いた。
颯ちゃんちから3軒離れた所の一軒家…
「そうだったの?あたし何も聞いてないよ」
「だって言ってないし」
サラッと夏美はそう言って、颯ちゃんちの家の方向に向かって足を進めて行く。
まぁ、そりゃそうだ。今まであの人達と関わった事もないし、突然言われても、ナオって誰だ?颯ちゃんって誰だ?ってなって、さっぱり意味不明だろう。