その手に触れたくて
あの日からお兄ちゃんとも顔を合わせてなかった。…と言うよりもお兄ちゃんなんかに会いたくなかった。
顔なんて見るのはもってのほかで…お兄ちゃんが夜中に帰ってくる事だけが救いだった。
仕事に行ってんのか遊び暮れてんのか分かんなかったけど20日に受け取る給料袋がリビングのテーブルに置いてあった。
養わなきゃいけないってお兄ちゃんなりに思ってるから、きっとちゃんと仕事に行ってんだろうと思った。
ママはあたしの事を心配してる。…のは分かるんだけど嘘でも“大丈夫だよ”なんて言葉は言えなかった。
“風邪”って、とりあえず言ってみたけど本当に風邪で熱でもあるんじゃないかって思うほど、身体がしんどかった。
あぁ…そっか。きっとそうなんだ。きっとこのまま隼人とあたしは自然消滅になるんだ。
なんて訳のわからない考えをした時だった。
いつも通りにベッドに横たわって視点も様(ざま)にならないままのあたしの耳に密か携帯が鳴り響いた。
何回かで切れた着信からするとメールだったと確信する。暫く経った後、床に落ちている携帯を拾い上げ、何気なく開いた携帯にあたしの視界は一気に広がった。
《逢いたい…》
たった4文字の隼人からのメールだった――…