その手に触れたくて

急いで病院まであたしは自転車を飛ばした。きっと無我夢中ってこの事なんだろうと思った。

隼人にこれから何て言われるのかなんて、あたしは何も考えてなくて、ただただ隼人を思うだけにあたしは自転車を漕いだ。


冷たい風が頬を掠め、手の体温さえも奪われてもあたしは必死で隼人に会いに行った。


自転車を停めて、急いで隼人の居る病室まで走った。だけど扉を目の前にしてあたしの足は何故か動かなかった。


ドアに手を伸ばしてみたけど、なかなかその手は開ける事さえも出来ずに数分立ち尽くした時だった――…



Γ美月…」


不意に聞こえたその声に思わず身体がビクンと飛び跳ねた。

視線を徐々に声のする方向へと向けると、そこには松葉杖をついた隼人が居た。


隼人を見つめるあたしに隼人は口角を上げ優しく微笑む。その隼人を見て、少し心が和らいだ。


いつもの隼人だ――…


1週間振りに見る隼人は少し痩せている様にも思えた。額に巻き付けてあった包帯はなくなったけど、あの時の痛々しさが今でも目に浮かぶ。


左足を引き摺ってゆっくり歩いてくる隼人にまた胸が痛くなり、あたしは思わず視線を下に落とした。


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