その手に触れたくて

落とした視界に入ってきたのは隼人の足と松葉杖で、あたしはその痛々しさに唇を噛み締める。


フワッと頭を撫でるその行為にゆっくりと下げていた顔を上げると、隼人はあたしの頭をもう一度クシャッと撫でた。


Γごめんな…俺が行けなくて」


不意に落ちてきた隼人の声は沈んで哀しそうな声で――…そして隼人は哀しそうな顔で薄ら笑い、そんな隼人にあたしは素早く首を振った。


Γ入ろ」


隼人はそう小さく呟いてドアを開け、中に入って行く隼人に続いてあたしも入る。

1週間前とは全然違う隼人の病室。小さな台の上には車とかバイクの雑誌が積み重ねてあって、ソファーには隼人の服が散乱してあった。


Γあっ…あたし何にも持ってきてない」


誰かが持ってきたのであろう、その雑誌類を見た途端、あたしの口から思った事がそのまま喉を通して出てた。

そんなあたしに、


Γ何もいらねぇし」


そう言った隼人は薄ら笑ってベッドに腰を下ろす。

やっぱ…あたしは隼人が好きなんだ。隼人の顔を見て思わず“好き”なんだと実感させられた。


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