その手に触れたくて

Γ聞いて、美月…。俺は美月の為なら殴られてもいい。美月だって分かんだろ?」


そう言って隼人は俯いているあたしの顔を覗き込み、再び言葉を続けた。


Γ美月の兄ちゃんはな、ちゃんと筋を通さなきゃダメな人で、隠してまで付き合えるような人じゃねぇんだよ。な、分かんだろ?」


何故、隼人がここまでお兄ちゃんの事で必死に問い掛けてくるのか分かんなかった。

けど隼人はお兄ちゃんの事をちゃんと理解してた。隠して付き合えばいいって思ってた。隠してバレた時には駆け落ちでも何でもすればいいと思ってた。

だけど隼人が言った通り、お兄ちゃんはちゃんと筋を通さなきゃダメな人で…もしお兄ちゃんにバレた時には隼人にすら会わせてもらえなくなる。


それが一番あたしの嫌な事だった。



Γでも、隼人…」

Γ大丈夫。殴られても平気。俺、慣れてるし」


そう言った隼人は情けなくフッと笑った。


Γ慣れてるとか言わないでよ」

Γごめん。けど、マジ大丈夫だから心配すんなよ。回復したらすぐに美月んちに行くから」

Γ隼人…」


隼人の名前を小さく呟き、あたしは隼人を見上げた。隼人は見上げるあたしを優しく微笑み、頭をクシャッと撫でる。

その優しく微笑んでる隼人の顔にそっと触れた。痛々しい傷痕に触れると、隼人は一瞬、顔を顰める。


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