その手に触れたくて
暫くしてコンコン…と不意に聞こえたドアのノックの音で、あたしは慌てて隼人から離れた。
何か嫌な予感がした。分かんないけど嫌な予感がした。
もしかしてお兄ちゃん?…と思うと、あたしの額から汗が滲み出てくるのが分かった。
別に悪い事なんてしてないのに、ソワソワするのが自分にでも凄く分かる。
隼人は勢いよく離れたあたしに視線を向け、
Γどうした?…美月」
そう低い声で呟いた。その隼人の応えに返事する間もなく、もう一度ドアをノックする音があたしの耳に鳴り響く。
高鳴る鼓動を無理矢理、静めて俯くあたしに、
Γはい」
隼人のその声が異様に重くのしかかった。
誰?誰なの?誰…。そう思ったのも束の間だった。
Γ橘くーん。点滴の時間です」
明るく鳴り響いた看護師さんの声で、一気にあたしの身体の力が抜けた。
ホッとして高鳴っていた鼓動が少しずつ治まっていくのが分かる。
額に少し滲んだ汗を手で拭った時、看護師さんが姿を現した。
Γあっ…、」
あたしが居た事に看護師さんは優しく笑って会釈する。そんな看護師さんにあたしも頭を下げた。
Γ2回目の点滴しますね」
そう言った看護師さんは手に持っている点滴の袋をベッドの上に置き、隼人の手に触れた。