その手に触れたくて
微かに目を開けていくと、あたしの手と隼人の手が見えた。
まだ視界がぼんやりとしている中、あたしはゆっくりと身体を起こし後ろを振り返る。
もう完全に日は落ちていて外は真っ黒で覆われていた。
Γ寝てたんだ…」
窓から視線を隼人に向けると、まだ隼人は吐息をたてながら眠っていた。
いつ看護師さんが来たのか分かんなかった。ただそう思わせたのは隼人の腕に付けてあった点滴がなくなり、テーブルには夕御飯が置かれていた。
ボーっとする頭を起こす為、あたしは軽く頭を左右に振る。握り締めていた隼人の手を離すと、今までの温もりがスッと消えた。
ベッドの横にある小さな机の上にあった1本のボールペンを手に取り、鞄の中から小さなメモ帳を取出す。
その紙をちぎってあたしはペンを走らせた。
《帰るね。…また来るから。ご飯ちゃんと食べるんだよ。美月》
病院を出てからあたしは暗い夜道を自転車で駆け抜けた。
夜になるにつれて風が冷たく手の体温が奪われる。さっきまで繋いでいた隼人との温もりが一瞬にして奪われたと思うと、それだけでなんだか淋しくなった。
また明日も隼人に会いに行こう…そう思いながら、あたしは家まで帰った。