その手に触れたくて
ほんとに隣だから1分も掛らない。
でもそれをあたしの足が止めた。
すぐにでも入ってもう一度、布団に潜り込もうなんて考えてた。寒いからすぐにでも家の中に入りたいって思ってた。
でも、それを邪魔したのはあたしの足。
行きたいけど行けない。前に進みたいけど進めない。
そうさせたのはあたしの家から出て来たお兄ちゃんの所為だった。
つっ立っているあたしに気づいたお兄ちゃんは、一瞬にして眉を寄せる。“また凛の家かよ”って言いたげな顔であたしを見る。
だけどお兄ちゃんはあたしに何も言わずに車に乗り込みエンジンを掛けた。
発進していく車が見えなくなるまであたしは見てた。
何も言われなかった事に安堵のため息が口から洩れる。
止めていた足を進め、あたしは自分の家へと入り、風呂場に向かう。向かってすぐに浴槽に湯を溜める為、ボタンを押した。
「はぁ…」
思わず深いため息が出てしまった。
しっくりこないこの感情がすごく嫌だった。
「…美月?」
不意に聞こえた声に振り返ると風呂場を覗いていたママと目が合った。
「最近、響と揉めてるみたいだけど、どうしたの?」
そう言葉を続けてくるママから視線を逸らし、
「別に…」
あたしは素っ気なく返してママの横をすり抜けて脱衣所を出た。