その手に触れたくて

カナリ高いその体温計を一度ケースに戻し、あたしは0になったのを確認した後、隼人に差し出す。


Γ隼人、一回測って?」

Γうん」


と言いながらも一向に手を伸ばしてこない隼人。

ゴホゴホと咳こむ隼人はあたしに背中を向け横向きになった。


Γねぇ、隼人。体温測って?」


もう強制的であろうが何だろうが、あたしは隼人の左腕を上げ体温計を脇に挟んだ。

もう一度触れる隼人の額からはジワジワと熱がこみあがってくる。

大袈裟じゃないけど手が火傷すんじゃないかってくらい熱かった。


何で?いつから?考えてみたら1週間は連絡はなかった。あたしが電話をしても隼人は出なかった。

だけど1週間前からって事はない。風邪はきっとここ数日の間。


と、すると記憶を辿ってみれば最後は夜中、隼人と一緒に居た日。

聞いてくれないお兄ちゃんに隼人は夜中、毎晩いた。


Γ…もしかして――…」


ピピッと鳴る電子音にあたしの思考もピタッと止まる。

隼人に挟んでいた体温計をそっと抜くと、


Γうっそ…」


ありえない数字が目に飛び込んだ。


39.7と言う数字に一瞬頭がフラッとする。


Γ隼人っ!!病院いこ?」


あたしに背を向ける隼人にそう声を掛けるものの、隼人は返事すらしない。

暫く何度かそう声を掛け続けた時、


Γいい」


低い小さな隼人の声が聞こえた。


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