その手に触れたくて
いつ授業が終わったのだろうか。
廊下から聞こえてくるザワザワとした声に目が覚めてしまった。
どれくらい寝てたのかもさっぱり分かんない。
けど隼人が行ってからだったから30分は寝たと思う。
ホントに熟睡だ。
額にあったタオルは少し横にズレてて、それをあたしは引っ張り上げる。
もうすでに熱で熱くなったタオルは冷たささえ感じない。
フッと短く息を吐いた時だった。
「あれ?いない。ねぇ?橘先輩いない」
ガラッと開いた音と、女の話すその言葉にドクンと心臓が高鳴った。
橘って…隼人の事?…ってか誰?先輩って言った事は、また後輩か。
「え?居ないの?つか、ここで寝てんじゃない?」
誰かの声にまた焦った。近づいて来るその陰にあたしは咄嗟に布団を引っ張り顔を隠す。
「あ、違う」
いかにも覗きましたって言葉を口にする後輩。
つか、辞めてほしい。
よりによって隼人だなんて、ありえない。
「なーんだ。居るって言うから来たのに」
「マイ絆創膏貼ってもらったって喜んでたじゃん」
「橘先輩スキだもんねー、マイ」
「いや、でも好きになる気持ちは分かるよ。結構有名だし。ま、あたしは直司先輩だけど」
「ってか考えてみると、あの4人の先輩達カッコいいよね」
「F4じゃん」
「F4って…」
クスクス笑ってる会話はどうも聞きたくない会話だ。
まさかのまさかで、あたしが居るとも知らずに話す女達に耳を塞ぎたくなった。