その手に触れたくて

学校を出て直ぐだった。

ほんの近くに病院がある。って言っても個人の小さな病院。


「美月、保険証…って持ってねーよな」


ソファーに座ってるあたしに隼人は振り返って受付からそう声を掛ける。

コクンと頷くあたしに隼人は正面を向き看護師さんにそう告げている。


もう午前中の診察時間が終わろうとする頃か、患者さんも殆ど居なくて、15分くらいで呼ばれた。

とりあえず症状を伝え、診察を終えると、あたしは隼人が座っている横に腰を下ろす。


Γ何て?」


座ったあたしに隼人はそう口を開く。


Γうん、風邪。喉も赤いって」

Γやっぱ俺のんがうつってんな」

「けど大丈夫だよ」

「大丈夫な訳ねーだろ。しんどそうなのに…。帰ったら薬飲んで寝とけよ」

「うん」


暫くして看護師さんがあたしの名前を呼ぶと隼人は鞄を置いてそそくさに立ち上がり会計場に向かう。

財布を出す隼人を見て、あたしは自分の鞄から財布を取り出し中身を覗く。


だけど、千円しか入ってなくて――…


Γ行こうぜ」


隼人は2つの鞄を持ち、あたしに視線を向けた。



< 410 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop