その手に触れたくて

「つか、その話はまた今度」


隼人がそう言ってすぐに剛くんの視線があたしに突き刺さったのが分かった。


Γあー…、なるほど」


そう低く呟いた剛くんはあたしから視線を逸らしタバコを1本咥える。

何が“なるほど”なんだかよく分かんない。でも、この場面からしたら、あたしが居るからって事で納得したに違いない。

“抜けた”って言った剛くん。その意味がなんとなく分かってしまったあたしは何だか心ん中がしっくりとこなかった。


あぁ…多分。風邪だからだと思う。ボーってする気分も、こんな複雑なしっくりこない感情は、きっと風邪の所為だと思い込ませたい。


Γとりあえず、また今度な。今、急いでっから」


隼人はそう言いながら自転車の籠に鞄を突っ込み、サドルに跨る。


Γあぁ」


煙を吹かす剛くんに何となくお辞儀をすると、剛くんはうっすら笑って口角を上げた。


夏美が怖いって、言ってた剛くん。

相沢さんが前、付き合ってた剛くん。

カナリの悪って聞いた剛くん。


確かに怖いオーラは出てるけど、何となく最後に微笑んでくれた剛くんが悪い人じゃないって思ってしまった。


まぁ、でも相沢さんが付き合ってたんだから、悪くはないか…


Γ…美月?」

Γあ、え?」


そんなどうでもいい事を考え込んでると不意に聞こえた隼人の声に反応する。




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