その手に触れたくて
「うん…。だけど何て?」
レモンティーを口に含む相沢さんにあたしはそう聞いてみる。
「抜けたって聞いたけど大丈夫?的な感じでさりげなくね」
そう言った相沢さんは持っていたカップをソーサーに置き、あたしに向かって少し笑みを漏らした。
「そんなので大丈夫かな?怪しくない?」
「大丈夫だよ。あ、そう言えばさ…ってさりげなく持ち出すだけだから。そうか美月ちゃん聞いてみる?」
そう言われた瞬間、あたしは素早く首を左右に振る。
そんなの聞けっこない。確かに剛くんが言ってた事は凄く気になる。正直あの時も凄い気になってた。でも、深くは聞けなかった。
だって、隼人は何でもないって言うに違いない。
分かってるからこそ何も聞けなかった。
「まぁ、でもあたしが聞くより相沢さんがいいかも知んないね」
フーっと息を吐き出した夏美は冷静に言う。それに頷いたあたしは残りのケーキをフォークで突いた。
「うん、じゃあ聞いてみるよ」
相沢さんの言葉にあたしは頷く。
その後の会話は隼人の話なんて一切出なかった。あらゆる普通の会話。ただ他愛ない会話をして盛り上がってた。
“美味しかったね”と言って別れた後、あたしの頭の中は隼人に埋め尽くされていた。考えれば考えるほど頭の中が混乱していって、今何してんだろう。とかそー言う変な心配までしてしまった。
それからの日々はホントに普通だった。
隼人も何の変わりも無くまったくの普通だった。毎日、あたしと一緒に供をしてホントにホントに穏やかの日が続いてて、何もないんじゃないかって思うくらいだった。
だから数日後に相沢さんが“聞いたけど何もなさそう。良かったじゃん”って言葉を聞いて余計に安心してた。
安心しすぎてしすぎて、もう何も考えなくなってた矢先の出来事だった。