その手に触れたくて

「えぇっ!?またぁ!?」


放課後の教室に弾ける夏美の声が響いた。

先帰って。と隼人に言われてもう3週間は過ぎた。もちろん毎日じゃないけど、1週間のほぼと言った感じだ。


「うん」

「何処行ってんの、隼人?」

「さぁ…」

「さぁって何?美月聞いてないの?」

「うーん…。だって遊ぶって言われて他に聞く事ないじゃん」

「何処行くの?とか聞きなよ」

「だってしつこく聞いたら嫌じゃん」

「彼女なんだからそれくらいはいいでしょ!!」


グサッと突き刺さるような夏美の声。

でも夏美が言う通り、“またぁ!?”って内心では思ってる。でも、しつこく聞くのは何故か出来なかった。

隼人の表情を見てると聞けなかった。

それ以上は聞くなって感じ的の表情。と言うよりも沈んでる隼人の顔を見てるとどーしても聞きにくかった。


「分かってんだけど…」


思わず小さく出た言葉に夏美は顔を顰めて深いため息を吐き出す。


「ま、あたしは別にいいよ。暇人だし。それに今まで隼人に美月を取られたーって感じだったしさ」


そう言って、さっきとは打って変わってニコっと微笑む。


「ありがと」

「でもさ、なんかあったら隼人に聞きなよー」

「うん」


それからの数日間はまた前みたいに戻って、隼人はあたしと帰ってくれていた。だから何も思ってなかった。数日前まで思ってた不安がいっきに消え去ったみたいに、あたしは何も深く考えなかった。

でも、だけどまた6月に入って暫く経ってからの出来事だった。




< 451 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop