その手に触れたくて

「どした?」

「え?」

「深いため息」


視線を上げる先に見えるのは一度も逸らされる事のない隼人の顔。でも、その顔が疲れきっている表情にしか見えなかった。


「あ、うん…」

「何?」


もう、このさいだから聞こう。じゃなきゃあたしの心がムシャクシャしてどーしようもない。

だからあたしは意を決して深く深呼吸をした。


「あのさ、」

「あぁ」

「隼人さ、何か最近おかしいよ?」

「は?」

「だから…いつもの隼人と違う」

「何で?」

「何でって、あたしが知りたい!!」


思わず少し張り上げてしまったあたしの声に隼人は一瞬、眉間に皺を寄せた。


「つか、美月のほうこそどした?何怒ってんだよ」

「何って…。隼人が気になるから聞いただけじゃん。いつもいつもさ、何処行ってんの?何も言わないじゃん!!隼人が心配だから聞いてんの!?隼人さ、あたしに言えないような事でもしてんじゃ-―…」


勢いに乗ってつい張り上げてしまった言葉を、あたしは慌てて閉じる。

そこまでは口に出そうとはしていなかったのに、つい勢いで言ってしまった事であたしは思わず自分でも分かるくらい、目を泳がした。


「ごめん」

「……」


だけどすぐだった。

隼人が口を開いたのが余りにも早くてあたしは揺れる視点を隼人に合わせる。思ってもみない隼人の言葉に余計に言葉が詰まった。








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