その手に触れたくて

“隼人、何してんの?”


たったそれだけのメールをあたしは送信した。

電源を入れた時に気づいてくれるはず。そう確信をしてあたしはパチンと携帯を閉じた。


「もしかして…電波の届かない所に居るのかな?」


パチンと閉じた後、ふと思いついた事を口にするあたしに、


「はぁ!?…んな訳ないじゃん。今時電波の届かない所なんて山奥しかないじゃん!」


キッパリと胸を突き刺す夏美の声にあたしは余計に気分が落ち込んだ。


「…だよね」

「そーだよ!!」


隼人…何してんだろ。一緒に帰るって言う約束どーすんの?帰れもしないのに、そんな事言わないでよ!

喜びがいっきにぶっ飛ぶじゃん。


もしかして…帰る頃には学校に現われるかも、知んない…そう少しだけ思ってた。そう、少しだけ期待してた。

だって、そう期待するしかなかったから。


でもそんな事は見事にぶち破られた。放課後まで現われなかった隼人は、あたしにメールさえも送ってくれなかった。…と言うよりも電源すら入っていなかった。

隼人の事を誰かに聞こうとしても聞く人すらいない。直司だって来てなかったし、もうこの学校には颯ちゃんも敦っちゃんも居ないから。


だから、結局分からないままだった。その日は夏美と帰った。夏美の表情は良くなかったけど、あたしが気にしてるからだろうか、隼人の名前は帰るまで一切出さなかった。

だから、良かったんだ。その夏美の気遣いにあたしは良かったと思った。


だって、隼人の名前を出されたら、もう返す言葉すらみつかんないから…

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