その手に触れたくて

「だから、別れたの」

「マジで言ってんの?」

「あたしはね、別れたつもりなんてないけど、隼人が別れたいって…」

「え、意味分かんないんだけど」

「あたしだって分かんないよ。けど、あたしの事は好きじゃないってさ」

「はぁ!?」

「他に好きな人が居るんだってさ」

「はぁ!?」

「だから、だからね、」


そこまで言うのがやっとだった。言葉を途切れる事なくそこまで言うのがやっとだった。だけど、もう限界だった。

息がまともに出来なくなってた。呼吸だって荒くなってて、これ以上話す事なんて無理だった。


「つか、マジ許せないんだけど」


夏美の表情がいっきに曇ると同時に、夏美は素早く立ち上げる。その夏美に目を見開くと、あたしは咄嗟に腕を掴んでた。


「何処行くの?」

「決まってんじゃん、隼人の所しかないじゃん」

「ま、待ってよ」

「え?何?」

「ダメ、行っちゃダメ」

「何で!?あたしだって納得いかないよ!!」

「お願い。何も言わないで。これはあたしと隼人の事だから」


“ね、夏美。お願い”

付け加える様に念を押すと、夏美はため息を吐き捨てて顔を顰める。


「分かってるけど…」


小さくそう吐き捨てた夏美は深く息を吐きながら、もう一度腰を下ろした。


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