その手に触れたくて
そっとあたしの後頭部に回ったのは夏美の腕。
あたしを抱きしめる夏美は甘い香水の香りがした。
「いいの?それで…」
「…うん」
そう夏美に言ったけど、内心はいい事なんて何もなかった。
夏美にはこれ以上、悩ませたり心配はさせたくない。
あたしが全部考える事だから。
「あたしに何か出来る事あったら言ってね」
「うん。ありがと…」
あたしを抱きしめる夏美の力は相当に強かった。今にでも泣き叫びたくて、震える身体が震えないくらい強く抱きしめてた。
暫くして夏美がそっと身体を離すと優しく笑みを向ける。だけど、その表情が悲しそうに笑ってた。
「…美月、学校どーする?」
「うん、行くよ。来週からはちゃんと行く」
「じゃあ、自転車置き場で待ってる」
「うん」
その後、夏美を途中まで送るとあたしはまたいつもと同じようにベッドに倒れ込んだ。未だに目が腫れている所為で重く感じる。
ママもお兄ちゃんもあたしには何も言ってはこなかったし何も聞いてはこなかった。
だからそれが…唯一の救いだった。