その手に触れたくて
「ナオ頑張れー」
「お前、下りろよ。お前が重いから進まねぇだろ!!」
「ひっどー…もう下りてやんないよ」
「お前、マジぶっ殺す」
怒りの混じった直司の声と上機嫌に笑う夏美の声が、ここまで響いてくる。
だけど、まだ2人の姿は見えない。
「アイツらまた馬鹿やってんのか…」
あっちゃんが苦笑い気味で話し、隼人と颯ちゃんは呆れたように笑う。
そんな光景に思わずあたしも苦笑いをする。
暫くすると急な坂から直司の姿が見え、直司はシャツの袖を捲り上げて俯き加減に自転車を押していた。
だけど、その自転車の後ろに夏美が乗っていて、思わずあたしは唖然とする。
「ちょ、夏美!歩きなよ」
自転車から下りて近づいて来る夏美にあたしは声を張り上げる。
「だろ?こいつホンマに…」
直司は息を切らしながらそう言って、自転車を停めた後、その場に座り込み顔を伏せる。
「違うよ。あたし歩いてたんだよ?けどナオが途中から一人で自転車に乗って行こうとするから意地悪して乗ってただけだよ」
「意地悪って…」
あたしが呆れながら呟くと隼人は、
「こりねぇな、お前らは」
そう言ってハハッと笑いタバコの火を消す。