その手に触れたくて
教室を出て重い足取りを精一杯動かした。
廊下から騒いでる人達の笑い声が凄く耳触りで、何気ない気分のまま階段を降りている途中だった。前方から上がって来る人物に思わずドクンと心臓が波打つ。
…隼人。
思わず足を止めてしまったあたしは上って来る隼人に視線を向ける。だけど、向かってくる隼人は一切あたしを見ようとはしなかった。
通り過ぎて行く瞬間も、まるであたしが空気の存在の様にあたしを見てはくれなかった。
それが、悲しくて、悲しくて。辛くて苦しくて胸が張り裂けそうなくらい苦しかった。
いつもの様に“美月”って呼んで笑ってほしかった。
頬に涙が滑り落ちてくのは難しいものではなかった。今のあたしにはすごく簡単で、いつ何処にいてもすぐに流せそうだ。
もう隼人の中にあたしは居ないと思うと、もう死んでもいいって思う程だった。
でも、どうしてもまだ納得が出来なかった。隼人の中では終わってる事かも知れないけど、あたしにとってはまだ何も終わってはいなかった。
だから、頬に滑り落ちた涙を拭きとって、急いで階段を駆け上がった。
もう一度、聞きたい。そう思って階段を上がって角を曲がったけど、そこにはもう隼人の姿はない。
話したくて、どうしても話したくて。無理だと分かっていてもあたしは隼人と話したかった。だから保健室で寝転んでたあたしはベッドに寝転んだままポケットから携帯を取り出し文章を打ち込む。
“話したい。会って話がしたい。だから放課後、体育館の裏で待ってる”
そうあたしは隼人に送信した。