その手に触れたくて

“先、帰って”と夏美に言った放課後。

あたしは重い足取りで体育館の裏まで行った。


来てくれるかなんて分かんない。でも信じたいんだ。隼人の事を信じたい。来てくれるって事を信じたい。

だけど刻々と過ぎて行く時間に心が押しつぶされそうになった。

待っても、待っても来ない隼人に胸が張り裂けそうになる。


あの階段で偶然会った隼人の顔が頭を過った。もう、あたしなんて知らない。赤の他人なんだって言うその表情が何度も何度も思い浮かんだ。

もう一度、もう一度だけ話したい。だからお願い…



来て、隼人。



どれくらい時間が経ったのかも分かんない時だった。

不意に見えた人影にあたしはゆっくり視線を上げる。そして上げてすぐ思わず目を見開いた。


「え、何で?」


見つめる先には直司が居て、あたしをジッと見る。


「アイツなら来ねぇよ」

「……」

「もう帰ったから。…だから待ってても来ねぇと思う」


だんだんと、あたしの視線が地面に向く。

唇を噛みしめるあたしは鞄を持つ手に力が入る。


そんなあたしの前から今にも歩きだして遠ざかって行きそうな直司の腕を思わずギュッと握りしめた。

あたしに背を向けていた直司は少し驚いた表情で振り返る。その、直司の掴んでる腕にあたしは力を込めた。



< 492 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop