その手に触れたくて

「なんだ、良かった。じゃあ、誰?」


また変な事を聞いたのだろうか。

お互いに顔を合わせる夏美と相沢さん。言いにくそうに、その瞳を泳がせる。


と、暫くしてからだった。

二人の視線がお互い離れると、相沢さんの口が秘かに動き出す。


「…隼人…なんだよ」

「…え?」


一瞬、あたしの中での時間が止まった。

何て言った?ねぇ、相沢さんはさっき何て言ったの?


「美月ちゃんをここまで連れてきたの、隼人なんだよ」

「…隼人…が?」


ありえないと思った。そんな事ありえる訳がないと思った。

だってもう、隼人とはとっくに終わってる。


なのに、何で隼人が…


「あたしが丁度下駄箱に来た時、凄い悲鳴が聞こえてさ、駆け寄ったら夏美ちゃんだった。で、その隣で美月ちゃんが倒れてた」

「……」

「もう、あたしもパニくっちゃって…おまけに人だかりは出来てくるし。夏美ちゃんは必死で美月ちゃんに声掛けてんだけど起きなくてさ。だから先生呼びに行こうとした時だった」

「……」

「人だかりから現われたのが隼人。俺が連れて行くって、そう言った隼人が美月ちゃん抱えて行ったんだよ」

「……」

「ねぇ、もしかして隼人、まだ美月ちゃん事スキなんじゃない?」


そう言った相沢さんからあたしは視線を逸らす。

そんな訳ないじゃん。そんな訳あるはずがない。



だって、あたしは…
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