その手に触れたくて
「そんな訳…ないよ」
「で、でも…」
「隼人とは、もう終わってる。あたし…夏休み中、隼人と出会ったんだ。そこでキッパリ言われたの。俺の事なんて忘れろって、もう終わってるって。だから、そんな事ないよ」
「じゃあ、どーして美月ちゃんをここまで連れてくるの?」
「そ、それは…」
あたしにだって分かんない。
分かんないよ、そんな事。隼人が何をどう思ってあたしを保健室にまで連れて来たのかなんて分かるはずがないよ。
分かるんなら知りたいよ、その理由。
「あたし、聞いたんだよね」
不意に聞こえた夏美の声。
今まで話に入ってこなかった夏美は掴んでいたあたしの腕からそっと手を離す。
「隼人…“ゴメンな”って小さな声で言ってた」
続けられた言葉に閉じかけていた目が一瞬にして開く。
「初めは、あたしが邪魔だからゴメンどいてってな感じで言ってきたんだと思った。でも、それって違うって直ぐに気づいたんだよ」
「……」
「美月に言ってた」
「……」
「隼人、泣きそうな顔してた。あんな隼人の顔見たの初めてだった。だから隼人はまだーー…」
「だから違うって!!」
思わず声を上げて夏美の言葉を遮ってしまった。
目の前に居る夏美と相沢さんは驚いた様子で口を噤む。
だから、もう言わないでよ。
いてもたっても居られなくなったあたしは、布団を頭まで引っ張りあげて潜り込んだ。