その手に触れたくて
「あれ?そう言えば、髪切った?」
「あ、は、はい」
何気なく聞かれた言葉に思わず曖昧な返事になってしまった。
「へー、どうしたの?あんな髪長かったのに…」
「うーん…なんとなく」
「なんとなくか…」
そう言った先生は微笑みながら布団を綺麗に畳んだ。
ベッドから足を下ろし上履きを履く。重い足取りを前に進ませカーテンから出ると、あたしをジッと見つめたお兄ちゃんと目が合い思わず視線を逸らせた。
「明日も無理しなくていいからね。無理しちゃうと良くなるもんもならないわよ」
「はい、すみませんでした」
先生に頭を下げたと同時に、「有り難うございました」お兄ちゃんの声が落ちる。
あたしの鞄を持って保健室を出て先行くお兄ちゃんの後をトボトボと着いて行きながら、あたしは車の場所まで行った。
「お袋、心配してたぞ」
車に乗ってすぐエンジンを掛けるお兄ちゃんはそう口を開く。
「うん、ごめん」
「お前、気づいてねーかもだけどお袋、相当に疲れてる。何があったか知んねーけど、ロクにメシも食わねえお前に」
「……」
「別に俺がどーこう言う筋合いはねぇけど、ちゃんとお袋だけには謝れ」
「うん…」
お兄ちゃんが言った事に間違いはなかった。
ママとも、全然会話をしてなければ話された事に何も答えてない。ご飯も食べずにひたすら寝ていたあたしにママはきっと悩んでる。
先生に言われた様にお兄ちゃんはあたしを病院まで連れて行ってくれた。検査をした結果どこも、何も異常がなかったあたしに自分自身もホッとした。