その手に触れたくて
「今日、遅くなっから。もしかしたら帰らねーかも知んねぇ」
“だから、お袋に言っといて”
そう付け加える様に言ってきたのは、家に着いて車のドアを開ける瞬間だった。
「うん…」
バンッ…とドアを閉めたあたしの横をお兄ちゃんの車が通り過ぎる。
思わず深いため息をつき玄関のドアを開けると、
「美月!?」
ママの心配そうな声が飛び交った。
スリッパの音を立てながら近づいて来るママの顔はどう見たっても心配している顔。
「ただいま…」
「響は?」
「仕事に行ったんじゃない?今日もしかしたら帰んないかもって言ってた」
「そう。…それより大丈夫なの?倒れたって聞くからビックリするじゃない」
「心配かけてゴメン。けど、もう平気。病院行ったけど異常なかったから」
「そう…なら良かったけど。昼食べてないんでしょ?」
「うん…」
「オムライスあるから食べる?って言うか、食べなさい」
そう言うママにいらないなんて言えなかった。これ以上、ママを困らせてはいけない。お兄ちゃんが言った通り、見るからにママは疲れてる。
ジックリと顔を合わせて見た表情が、凄く疲れきってた。
オムライスを食べてけど結局は半分しか食べれなかった。今までそんなに口にしてなかったから急激に胃に食べ物が入り込んだ所為で胃が痛む。
キリキリと痛み出す胃に気分が悪くなってしまった。だからと言ってママになんかに言えない。胃が痛くて食べれないなんて言えないあたしは、「残りは後で食べる」しか言えなかった。
胃を何度か擦って息を吐き出す。もう何も食べたくないってくらいまで胃がキリキリする。だけど、夜までにママが折角作ってくれたオムライスを少しづつ全部食べた。