その手に触れたくて

そこに居たのは一度も話した事のない剛くんの姿。

驚くあたしにジッと覗き込むようにしてあたしを見る剛くんの姿。


「えーっと…たしか夏美ちゃんの友達。…だよな?」


考える様にして口を開く剛くんは首を傾げる。


「あ、はい…」

「あー…やっぱし。髪短くなってんし違ってたらどーしょうかと思った」


そう言った剛くんは初めて笑みを漏らす。


「すみません。有難うございます」

「この変、危ねぇよ。やっかいな奴多いから気よ付けたほうがいいよ」


ポケットからタバコの箱を取り出した剛くんはカチっと音を鳴らして火を点ける。


「あ、うん…」


その赤くなった先端を見つめながら小さくあたしは頷いた。


「ねぇ、…香奈は元気?」


ふと聞かれたその言葉に思わず目が見開く。


「香奈とも仲いいんでしょ?」


そう続けられた言葉に素直に驚いてしまった。

どうして今更ながらにそんな事を聞いてくるのかと思った。


剛くんはタバコの煙を吐きながら、自販機の横にあったベンチに腰を下ろす。ジッと見つめてくるその瞳から思わずあたしの瞳が泳いでしまった。


「えっと…どうしてそんな事聞くんですか?」


正直な感想だった。

剛くんはフッと鼻で笑うと、「なんとなく…」そう言葉を吐きだした。
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