その手に触れたくて

「なんとなくって…好きだからじゃないんですか?」

「さぁ、どうだろうね。俺、あんま自分の気持ちとか分かんねーし、感情とかださねーから」

「……」

「だからよく冷たいって言われてたよ」


苦笑いで言う剛くんはタバコの先についていた長い灰をポンと揺らし地面に落とす。


「…相沢さん…元気ですよ」

「そっか、なら良かった」


本当はまだ好きなんかじゃないのかなって思ってしまった。人の心なんて分かんないけど、そう思ってしまった。

だから薄れていく隼人の心だって知りたいと思った。

言葉で交わさなきゃ何も分かんない。言葉で交わしてても分かんない事だっていっぱいあるのに…

だからこそ人間って不思議な存在だと思ってしまった。


「家、遠いの?送るよ?」


暫く経ってから口を開いた剛くんは吸っていたタバコをいつの間にか消していて、スッと立ち上がる。


「あ、いえ。大丈夫です。すぐそこなんで」

「そう?じゃあ、気を付けて」


軽く手を上げた剛くんはあたしに背を向けて歩きだす。

だけど、


「あのっ!!」


その足を止めたのはあたしが叫んだ声でだった。


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