その手に触れたくて
「…隼人、もう出てこれねーんじゃねーの?」
ふと通り掛った公園。
その聞こえて来た男の声に思わず足が止まってしまった。何気なく聞こえて来た“隼人”の懐かしいその名前。
視線を公園の中へと向けると数人の男達が屯ってた。数えてみると6人の顔ぶれ。その中には、ほんとにほんとに久し振りな敦っちゃんと颯ちゃんの顔ぶれもあった。
そして、直司。
周りには数台のバイクと原付。
だからだと思う。その懐かしい顔ぶれと思わず聞いた隼人の名前に足がこれ以上前に進む事はなかった。
「けど、darkに入ったら絶対抜け出せねーって聞いた事あんぞ」
「あー、ほらアイツ。俺らのタメの奴で高校途中で辞めた奴。アイツも入ってて抜け出す時相当にヤバかったらしいからな」
「つか何でアイツそんな所に入ってんだ?」
「さぁ…噂で聞いた話だから本当かどーかは分かんねーけど」
何が何だか分かんない繰り広げられる会話。
ただ何故か、もっと知りたくて、あたしはその場で立ちすくんだ。
「ほら、アイツ。多分、忘れようとしてんだよ」
“美月ちゃんの事”
ふと聞いたその付け加えられる様に吐きだされたその言葉に、何でか身震いが起きてしまった。
誰がそう口を開いたかなんてすぐに分かった。だって、今までしょっちゅう聞いていた直司の声だから。
ここからじゃ、誰が何を言ってんのかさっぱり分かんないけど今でも直司の声だって事はすぐに見分けられる。
…って言うか、どー言う事かさっぱり分かんない。
隼人があたしを忘れようとしてる?って、どー言う事?