その手に触れたくて

「なんか…あったの?」


表情があまり良くないあたしの顔を覗き込むようにする相沢さんの顔まで曇る。


「うーん…。あの、こんな事聞くのもおかしいと思うんだけど、」

「うん」

「隼人って来てる?」

「え?」


突然、隼人の名前を出した所為か相沢さんは大きく目を見開く。

そりゃそうだよね。もう何か月もその名前出してないんだから驚くのも無理ないよね。


「…ちょっと気になって」

「あ、いや…ここ最近、来てないって夏美ちゃんが言ってたけど」

「そっか」


やっぱし、来てないんだ。

あたしが避けてて見ないんじゃなくて隼人は来てなかったんだ。だから、ここ最近って言うよりもずっと見てなかったんだ。


「ど、どうかした?」


驚きを隠せないのか、相沢さんはビックリした表情であたしを見る。


「あの、あのさ」

「うん」

「この前、帰り道で直司に出会ったの」

「うん」

「出会ったって言うよりも出くわしたの方が正しいんだけど」

「うん」


そこまで言ったあたしは一旦、呼吸を整えて息を飲み込んだ。
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