その手に触れたくて

声が聞こえるであろう曲がり角。

恐る恐る足を動かしビルからそっと顔を覗かせると、思ってもないその光景に目を見開くどころか声を失ってしまった。


…お兄ちゃんがいる。

目の前にお兄ちゃんがいる。


でも、だけどもう一人。




…隼人だ。


状況が掴めない。

倒れてる隼人の胸倉をお兄ちゃんが掴んでいる。


え?何?何が起こってんの?

皆は?みんなはどこにいるの?


辺りを見渡すあたしの耳に、「え…響さん…」夏美の困惑した声が聞こえた。


覗く先に辛うじて見える隼人の姿。

胸倉を掴むお兄ちゃんの腕を掴んでる。


でも決していい様な表情ではなかった。

口元から血を出してる姿が微かに見える。



…お兄ちゃんが殴ったの?


「自分の立場考えろや!!」


お兄ちゃんはそう声を上げ、凄く険しい顔をしたまま隼人の掴んでいる胸倉をグッと上げる。

そして力任せに立たせた隼人を思いっきり――…




殴った…







< 571 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop