その手に触れたくて
声が聞こえるであろう曲がり角。
恐る恐る足を動かしビルからそっと顔を覗かせると、思ってもないその光景に目を見開くどころか声を失ってしまった。
…お兄ちゃんがいる。
目の前にお兄ちゃんがいる。
でも、だけどもう一人。
…隼人だ。
状況が掴めない。
倒れてる隼人の胸倉をお兄ちゃんが掴んでいる。
え?何?何が起こってんの?
皆は?みんなはどこにいるの?
辺りを見渡すあたしの耳に、「え…響さん…」夏美の困惑した声が聞こえた。
覗く先に辛うじて見える隼人の姿。
胸倉を掴むお兄ちゃんの腕を掴んでる。
でも決していい様な表情ではなかった。
口元から血を出してる姿が微かに見える。
…お兄ちゃんが殴ったの?
「自分の立場考えろや!!」
お兄ちゃんはそう声を上げ、凄く険しい顔をしたまま隼人の掴んでいる胸倉をグッと上げる。
そして力任せに立たせた隼人を思いっきり――…
殴った…