その手に触れたくて

「え、ちょっ…」

「美月ちゃん…」


夏美と相沢さんの怯える声が微かに聞こえる。

この立場であたしが出ていいのか分からなかったけど、もう一度隼人の胸倉を掴みかかったお兄ちゃんに、


「やめてよ!!」


張り叫ぶくらいの大声を上げた。

その声に反応したお兄ちゃんは眉間に皺を寄せたまま小さく舌打ちする。


“何しに来た”と言わんばかりの顔をしたお兄ちゃんの腕をあたしは激しく揺すった。


「どうして!?どうしてこんな事するの!?…ねぇ、お兄ちゃん!!」


お兄ちゃんは何かが吹っ切れた様に短く息を吐き捨て、掴んでいた隼人の胸倉からスッと手を離す。

そのまま倒れ込んだ隼人は、むせ返る様に咳払いをし、血の混じった唾を吐き捨てた。


その痛々しそうな顔に思わずあたしは顔を顰める。


「…酷いよ、酷過ぎるよ!いくらなんでもやり過ぎだよ!!」


お兄ちゃんの腕を掴んだまま次々に発していくあたしは、怒のかかったお兄ちゃんを見上げる。

そんなあたしに、


「お前もお前だ」


そう低く言葉を吐きだした。






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