その手に触れたくて

「美月ちゃんって家どこ?」

「えーっと…桜ヶ丘台3丁目。こっから少し距離あるんだけど…」


申し訳そうに言うあたしに直司は、

「あー、大丈夫。大丈夫」

そう言ってペダルを踏みしめる。


「ごめんね…。行きも自転車だったのに」

「平気、平気。それより掴まれよ、坂下りっから」

「あっ、うん」


そう言ったと同時に直司のシャツをギュッと握り、自転車は勢い良く坂を下った。

坂を下って少し走ると夏美が言っていたコンビニがあり、そこから凄い笑い声が聞こえ、直司は小さく舌打ちをした。


「くそっ、」


小さく声を漏らす直司に「どうしたの?」とあたしは声を掛ける。


「あ、いや別に。つーかさ、あそこのコンビニは行かねぇほうがいいよ」


直司はさっきよりも声のトーンを落とし、あたしに言う。


「あ、うん…」


あたしには何が何だか分からなかったけど、とりあえず直司の言葉に頷いた。


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