その手に触れたくて
「なぁ、直司(なおし)また来てねぇの?」
「え?」
「だから直司。…山本」
そう言われてピンときた。山本直司。クラスの中でいつも一人で孤立している男。
って言うか同じクラスになってまだ数回しか見ていない。
まぁ、そいつも所謂、怖い系だ。
「あ、いや…、あたし今来たばかりで…」
「じゃあ、あいつの席どこ?」
「あ、えっと…」
そう言って、その男の横をすり抜け窓際の一番後ろの机まで行き、後ろを振り向き指差した。
「ここです」
男は何も言わずに机の中を覗きガサガサと探る。
その光景を見ながらあたしは真ん中の列の後ろから2番目の自分の席に腰を下ろした。
下ろしたと同時に一時間目の始まるチャイムが校舎中に響き渡る。
「おい、」
チャイムに混じって聞こえてきた低い声に、あたしは思わず顔を少し上げた。
そこには、さっきの男が立っていて…
「はい?」
小さくそう言ってあたしは首を傾げた。
「英語の教科書貸して」
「え?」
「だから、英語。持ってねぇの?」
「いや…、あるけど」
「じゃあ、貸して。いい加減、教科書持ってこねぇとうっせぇんだよ」
「あー…、うん」