その手に触れたくて

「面倒くせぇな…そん時は俺がどーにかするって…」

隼人は深いため息を吐き捨てた後、両手をポケットに突っ込み、足を進めて行く。

隼人の背中から夏美へと目線を移すと、夏美は顔を顰めたまま息を吐き出し、ゆっくりと足を進めて行く。


「ねぇ、夏美?」


あたしは夏美に駆け寄り、肩をポンと叩く。


「ん?」

「あたしが言われるって何?誰に?」

「あー…」


夏美は小さく声を漏らした後、あたしをチラッと見る。


「隼人さ…彼女居んだよ」

「…え?」


一瞬、夏美が何を言ったのかが分からなかった。

あたしの頭の中の思考が一気に停止したようだった。


隼人…彼女いるの?ってか、居たんだ。って言うか居て当たり前か…

そんな事、考えた事なかったけど…


あたしは夏美から目線を逸らし、自分の足元をジッと見つめながら歩く。


「3年の先輩。」

「年上なんだ…」


夏美に聞こえないように、あたしはボソっと呟く。

なんか…胸が痛い。って言うか苦しいに近いかも…


< 71 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop