その手に触れたくて

とりあえず何も考えないように授業に集中したけど、やっぱり頭の何処かで隼人が出てきた。

何でだろ…何でずっと頭に思い浮かぶんだろ。


放課後HRが終わると直ぐにあたしは鞄を持ち夏美の教室へと向かった。

全開になっている前のドアから中を覗き込むと、隼人が後ろを向き夏美と何かを話している。

その光景を見て、思わずヒョイと顔を隠すと、


「美月ー!!」


夏美の声が響き、あたしは咄嗟に作った笑みを浮かべながら顔を覗かせた。


「何つっ立ってんのー!入ってきなよ」


小さくコクンと頷き、あたしは夏美の側まで近づく。


「何?どうしたの美月」

「え?」

「いや、何かいつもと違うって言うか朝から――…」

「しんどいのか?」


夏美の言葉を遮って、不意に聞こえた隼人の声に無理矢理、笑みを作り首を振る。

出来れば隼人を見たくない。

見たら余計に意識がいってしまう…

何でか分かんないけど意識が…


「大丈夫?美月…」

「あ、うん。全然大丈夫」

「ならいいけど…」

「あんま無理すんなよ」


夏美と隼人の言葉に頷くと、夏美は席を立ち鞄を肩に掛けると、ジッと見つめるように廊下に目を向け不思議な顔をした。


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