その手に触れたくて
お兄ちゃんとは違う学校だったけど、隣街の高校では荒れてたらしい。
まぁ、お父さんが亡くなってからは少しずつ落ち着いてきたんだけど、初めて夏美があたしの家に来た時、お兄ちゃんを見て凄く驚いた顔をしていた。
だからそれほどお兄ちゃんの名は色んな所で広まっているみたい。
でも、この学校ではあたしがお兄ちゃんの妹だとは誰も知らない。
知っているのは夏美だけ。
「行こっか」
「うん」
夏美は短くなったタバコを磨り潰して立ち上がり、あたしも立ち上がる。
駐輪場まで行くと、あたしは自転車の籠の中に鞄を入れ、自転車を取り出した。
「あー…、行かないほうがいい…かも」
足を進めてすぐ、戸惑い気味に言う夏美に、あたしは目を向ける。
夏美はジッと校門の方へ目を向けていて、不思議に思ったあたしは夏美と同じ方向に目を向けた。
向けた瞬間、また一気にあたしの胸が苦しくなり始めた。
見える先は茶髪の長い髪をクルクル巻いた女の人…
その人は両手をポケットに突っ込んでいる隼人の腕にしっかりと絡ませている。
……彼女。
あの人が隼人の彼女。