その手に触れたくて

あたしは小さく頷き机の中から英語の教科書を取り出し、その男に差し出した。


「悪ぃな。また返しに来っから」


そう言って、男はあたしが差し出した教科書を受け取り、そそくさと教室を出て行った。

その行く方向を見ていると後ろのドアから出て行ったっきり、姿が見えないと言う事はC組から後のクラスなんだなって思った。


ってか結局、名前も何も聞いてない。


要するにあの人は、直司って人のツレなんだろう。ってか、直司って人が教科書を持ってきているハズがない。

いつ来ても授業中、先生に注意されてるんだから。


でも、あの教科書を貸した男。ビックリするぐらい整ってたよね…、顔。


…怖いけど。


名前、何て言うんだろ。初めて見るし…、まぁ6クラスまであると知らない人だっているか…


そんな事を思いながらボーっとしてると授業はとっくに終わってた。


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