その手に触れたくて

手招きする夏美の側へと近付くと、夏美は運動場に指差し、


「剛くん…」


小さく呟いた。


え!!剛くんって、あの悪って言う噂の?!

相沢さんの彼氏の?

えっ、何でこんな所に来てんの?


色んな生徒達の声を聞く限り、本当に誰もが知ってるんだと思った。

窓から顔を出し、下を覗き込むと、薄い茶髪の男がダルそうに校舎の中へと入って行くのが見えた。


「えっ、何しに来たの?」


思わず顔を引っ込めて、呟くと夏美は険しい顔つきをする。

その表情を見てすぐ、何かヤバそうかも…って思ってると――…


「ヤバいかも…」


あたしが思ってる言葉を、そのまま夏美は口に出し、教室から出ていく。

何が何だか分からないまま、あたしが教室を出ると前方から私服を着た男がズカズカとこっちに向かって歩いて来た。


あの人が剛くんって人…


ずりさがって破れたジーンズに黒のTシャツを着た怖そうな男。


「隼人ぉー」


剛くんは夏美の教室を覗き込み、隼人の名前をダルそうに呼んだ。

すると教室の中から隼人が出てきて、あたしがいる方向に指差した。


え、何?


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