その手に触れたくて
そう思ってると剛くんはダルそうにジーンズのポケットに手を突っ込み、こっちに向かって歩いてくる。
その威圧感の所為で少し後退りした時、近づいて来た剛くんに夏美はコクンと頭を下げた。
「久しぶりです」
そう言った夏美に剛くんはニコッと微笑んであたし達の前を通り過ぎる。
笑ってんだけど笑ってない瞳が余りにも怖くて…
それどころか――…
「ね、ねぇ…」
あたしは恐る恐る、夏美に声を出した。
「ん?」
「あの剛くんって人、あたし達とタメじゃないの?」
「そうだよ」
「えっ、夏美、敬語だったじゃん」
「うん…あの人にはタメ口できない」
夏美は剛くんの背中を目で追いながらそう呟いた。
夏美がタメ口できないほど怖い人なんだろうか…
剛くんの背中を見ていると一人の人物が視界に入り…
それは隼人で、隼人は剛くんの後を追うようにして足を進めて行く。
「ちょ、隼人!!」
突然、夏美は隼人の背中に声を掛け、隼人は足を止めて振り返る。
「あ?」
「ちょ、危ないんじゃないの?」
夏美は事の現状が解っているかのようにオドオドし、
「大丈夫」
そう言って、うっすら隼人が笑った後、一瞬だけ隼人と目が合い咄嗟に目を逸らすと隼人は何もなかったかのように足を進めて行った。